川井萌【5174】127期|静岡支部

川井萌個人名鑑アイキャッチ画像

浜名湖競艇場を初めて観た日に、人生が変わった。高校1年生だった川井萌は、父に連れられて目にした水面の迫力に、それまで抱いていた美容師の夢をきれいさっぱり捨てた。静岡農業高校を中退し、3度目の挑戦で養成所に合格。2020年11月、その浜名湖でデビューした。

そして2026年2月、鳴門。左上腕の開放骨折という大怪我を越えて、B2の枠で川井萌が帰ってきた。

ジキルはこの選手のターンを、現時点で女子一番だと思っている。その理由をこれから書く。


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基本情報

川井 萌(かわい もえ)

  • 登録番号:5174
  • 支部:静岡
  • 師匠:吉村 誠
  • 弟子:(なし)
  • 1マーク選択傾向:自在
  • 進入狙いコース:1、2、3、5

【捲り差し一閃】×【女子屈指のウィリーターン】=【次世代筆頭のターン巧者】


【ジキルノート】捲り差し一閃、女子では数少ないウィリーターンの使い手

■ ジキルノート

旋回直後に舳先を浮かせて前に突き進むウィリーターンの精度が向上しています。旋回力と旋回スピードはすでに女子上位クラスの水準にあります。スタートが安定しており、3コースからの捲り差しの精度は高く、スリットで先手を取って浮上する展開を得意としています。近年は2コースの技術も向上しており、スロー域では予想に組み込んでおきたい存在です。なお、現時点でターン技術については女子の中で最も優れていると感じています。

順に解説する。

ウィリーターンという武器

旋回後の立ち上がりで舳先を浮かせ、水との摩擦を減らして一気に加速する——それがウィリーターンだ。古くからある技術だが、使いこなせる選手は限られる。女子ではなおさら少ない。川井はすでにこれを自分のものにしている。旋回力と旋回スピードは、女子上位クラスの水準に達している。

3コースの型——スリット先手からの捲り差し

川井の勝ちパターンははっきりしている。コンマ1台前半の安定したスタートでスリットから先手を取り、浮上してから外から内へ鋭角に切り込む捲り差し。この一連の流れが川井の型だ。あの初優勝のターンは、この型の完成形だった。詳しくは次章で全部話す。

2コースの進化——スロー全域で消せない存在に

近年は2コースの差しに安定感が出てきた。もう3コース一辺倒の選手ではない。つまり予想する側は、スロー全域で川井の艇を消せなくなった、ということだ。とジキルは見ている。

それでも本人は驕らない

2025年5月、SGオールスター初出場を終えた川井はこう言った。

「通用した部分はまだ全然1個もなかったです。ターンでも体がブレてしまっている部分があります。」

SG初勝利を挙げた直後の言葉だ。勝ちながら課題を見ている。だから動く。週1回のトレーニングジムでは、ターンの姿勢に近い体勢で5kgのボールをキャッチ&スローする瞬発力トレーニングを導入した。

「SGレーサーの方は判断がすごい早いので、自分もレースでの判断を早くして、すぐターンに移れるようなメリハリのある体の動きを目指したいです。」

課題を言語化して、トレーニングに落とし込む。そういう選手が伸びる。

数字の話ではない。眼の話だ

現時点でターン技術は女子の中で最も優れている、とジキルは感じている。数字の裏付けを出せと言われたら困る。これはレースを観続けてきた眼の話だ。レースを先に観て確信し、あとからデータで答え合わせをする——それがジキルのやり方で、川井萌のターンはその確信の側にある。

骨折からの復帰後、このウィリーターンがどこまで戻っているか。今の川井萌を見る上で、最大の注目点だ。


初優勝の真相——あの優勝戦、全部話す

2024年8月24日、浜名湖G3オールレディース「静岡クラウンメロン杯」優勝戦。

1号艇に今井美亜、2号艇が川井。3号艇には同支部の先輩・三浦永理が入り、4号艇・寺田千恵、5号艇・平田さやか、6号艇にはもうひとりの先輩・長嶋万記が構えた。

ピット離れで川井は遅れた。本来なら2コースを取るべき2号艇が、三浦永理に先に入られて3コースへ回り込む形になった。

本番、コンマ11でトップスタートを踏んだのは1号艇・今井美亜。そのまま先マイしたが、川井は3コースから捲り差し一閃。準優勝戦の再現のような鋭角なターンで艇間を割り、バックでそのまま引き離してVゴール。

デビューから3年9か月、通算798走目。127期女子の中で優勝一番乗りだった。

ただ——後味は複雑だった。ピット離れの遅れが三浦永理の待機行動違反を誘発した形となった。祝福の水神祭の裏で、川井がペコペコと頭を下げて回っている映像もあり、本人にとっては手放しでは喜べない初優勝だった。

それでも周りの選手たちは祝福していた。2号艇3コース、決まり手は捲り差し——前章で書いた型、その完成形の1勝だった。


骨が飛び出していた——2025年7月7日

初優勝から約1年。A1昇格、G1初出場・初勝利、PG1スピードクイーンメモリアルでの優出、そして2025年5月のボートレースオールスターでSGデビューと初勝利。駆け足で駆け上がっていた。

その絶頂から、川井は叩き落とされた。

2025年7月7日。唐津ヴィーナスシリーズ第8戦、開催初日の8R。1周2マークでバランスを崩した川井は激しく落水。水面に浮上した瞬間、後続艇が乗り上げた。

左上腕骨の開放骨折。骨が皮膚を突き破って飛び出す重傷だった。手術は2回。術後1〜2か月は腕が全く動かなかった。料理も、洗濯も、運転も、お風呂も一人ではできない。

地元浜名湖でのPG1レディースチャンピオン出場権も、ヤングダービーも、全部棒に振った。

それでも川井は落ち込んでいる姿を見せなかった。師匠・吉村誠が「本人はまったく落ち込んでいる姿を見せなかった」と語ったほどだ。退院後は毎日2〜3時間のリハビリ。握力は20kgを切り、体重は42kgまで落ちた。それでも続けた。

2025年12月。腕が動き始め、「これなら行けそう」と感じた川井は練習に戻った。そして2026年2月のスピードクイーンメモリアルで復帰した。

B2からの再スタート。ケガをして良かったとも思っている、と川井は言う。自分の周りにいる人のありがたみ、ボートから離れたことで見えた新しい世界、そして改めて感じた「やっぱりボートって楽しい」という気持ち。全部、次のレースに乗っている。

復帰後、あのウィリーターンがどこまで戻っているか。ジキルが今いちばん確かめたいのは、そこだ。


勝負飯は家系ラーメン——財布の中のまくり証明書

川井の勝負飯は家系ラーメンと決まっている。「食べると元気とやる気が出る」。レース前もレース後も、必ず行く。

高校生の頃、好きなYouTuberが1年間家系ラーメンを食べ続ける企画を見て自分も行ってみたのがきっかけだという。一口食べてハマった。

常連の店では、スープを全部飲み干すと「まくり証明書」をもらえる。1度だけ頑張って完飲したが胃もたれした。そのとき手に入れた証明書は今も財布の中にある。「レースでもまくりで勝てるように」と、お守り代わりだ。

ハンバーグも好きで、月1回通う静岡の有名店がある。増量型のレーサーだから、こってり系が体に合っているのかもしれない。好きなものを食べてストレスを溜めない——それも川井流のコンディション管理だ。


📸 写真提供クレジット:@kazu1220angryさん(掲載承諾済み)

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